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【33、幻獣神バハムート】

   セシル達が着地したのは月の民の館から少し離れた周りを岩壁に囲まれた洞窟の前だった。リディアはその洞窟から今まで感じたこともない強い幻獣の力を感じた。
「セシル、本当ならすぐにゼムスの所に向かうべきだろうけど・・。」
  リディアはすまなそうにセシルにこの洞窟に行かせて欲しいと頼んだ。セシルは話を聞き、快く承知した。
「そんなに強い幻獣の力なら仲間にすれば心強いよ。僕らも一緒に行くよ。」
「う、うん。」
  リディアがこの洞窟に行きたがったのは実は他にも理由があった。この洞窟から親友である半竜の力も感じられたのだ。リディアはなぜかこの洞窟にどうしても行かなくてはならない気がしたのだった。
                     ☆
  洞窟はそれほど広くはなく、迷うことはなかったが、行く手に立ちふさがるベヒーモスがかなりの難敵であった。普通のモンスターとは桁外れの体力と攻撃力を持つベヒーモスと3回も戦って彼らはいささか疲労気味であった。
「何かすごい敵だったが、この洞窟の主はあれよりも強いってことか?」
「うん。すごい力を感じるよ。多分リヴァイアサンでも太刀打ちできないだろうね。ずいぶん年をとっているみたいだけど・・。」
  寿命をつきかけの幻獣であるが、そうとも思えないほどのすさまじい気を感じさせる。おそらくこの洞窟にいるのは、幻獣神であろう。そう言えばネフティは幻獣神に呼ばれて行ってしまったけれど一体彼女に何の用事があったのだろうか。
「わからない。でもあたしは幻獣神に会わなきゃならない。それに確かに彼女はここにいる!!」
  リディア達は洞窟の奥へと進んでいった。
                     ☆
  洞窟の最も奥の部屋に入る前に、幻獣神の使いであるエルメスとミネルヴァの2人がリディア達の前に立ちふさがった。
「幻獣神様に、人間が一体何のようだ?!」
「幻獣神様は今大事な儀式の途中なのよ!!」
  リディアはそれならせめてネフティに会わせて欲しいと頼んだ。エルメスとミネルヴァが困惑して顔を見合わせていると、細面の美しい青年が現れた。
「幻獣神様!」
  2人が青年にかしづくと、青年は厳かに言った。
「来るがよい。お前達に話がある!!」
  セシルは幻獣神がこんな青年だとは思いもしなかった。しかしリディアは幻獣神が、姿こそ青年であるが、その寿命がつきかけていることを感じ取っていた。
                     ☆
  幻獣神は奥にリディア達を招き入れた。奥は思ったよりは広かった。さらに奥には少し高くなった祭壇があり、そこにネフティが横たわっていた。床には何か不思議な呪文のようなものが書かれていた。
「ネフティ!!」
  リディアがネフティの側に行こうとすると幻獣神に止められてしまった。
「あの娘は私の大事な生け贄だ!手を出してはならぬ!!」
「なっ!?」
  エッジは幻獣神につかみかかろうとした。カインはそれを必死に止めた。
「待て!何か事情がありそうだ!!」
「このまま嬢ちゃんが奴の餌食になるのに指をくわえて見ているつもりかよ?!」
  幻獣神はエッジを見て笑った。
「生きのいい若者だな?しかしそっちの若者の言うように私には事情があるのだ。」
  幻獣神は何の感情も読み取れない表情で淡々と言った。
「私は外見こそ若いが、かなりの高齢なのだ。この娘は竜の血を引いている。この娘の生き肝を食べればあと数万年は生きられよう。どうだ、召喚士リディアよ。私の力が欲しくはないか?そのためにこの洞窟にわざわざやってきたのであろう?」
  リディアは強く首を振った。
「確かにあなたの力を借りたくてここに来たけれど、ネフティを犠牲にしてまであなたの力を欲しいとは思わない!!お願い、ネフティを助けて!!」
  幻獣神はそれを聞き、高らかに笑った。
「ならば私に汝らの力を見せてみるがよい!!」
  幻獣神は真の姿を現した。それは大きな翼を持った巨大な竜の姿をしていた。
「召喚士リディアよ。思う存分お前たちの力を示すがよい!!」
  存在感といい圧倒するほどの気といい幻獣の神にふさわしい姿であった。
                     ☆
  幻獣神の力は強大であった。攻撃力だけでもすごいのに、魔力も他の魔物や竜などとは桁外れであった。リディアはリヴァイアサンを召喚して対抗したが、なかなか倒せそうになかった。もっともそれより恐ろしいのはフレアの百万倍の威力といわれる息である。あの息を吹きかけられたらひとたまりもない。たちまち全滅であろう。
「ローザ、念のために皆にリフレクをかけておいて!!」
「ええ!!」
  リフレクであの息がはね返せなければリディア達は一巻の終わりである。これは賭けであった。幻獣神はついにその脅威の息を吐き出した。
「げげっ!確かにすごい威力だぜ!!」
  フレアの百万倍といわれる幻獣神の息メガフレアが、リディア達に襲い掛かろうとしていた。しかしそれは跳ね返って幻獣神自身に襲い掛かった。
「ほう、考えたな。私の攻撃を逆手に取るとは!!降参だ!!」
  幻獣神はそう言って再び華奢な青年の姿に戻った。
                     ☆
  リディアは幻獣神に再度ネフティの命乞いをした。
「お願いです、幻獣神様!彼女を助けてください!!ネフティは私にとって大切な友達なのです!!」
  幻獣神はそれを聞き今までとは打って変わって優しい笑みを浮かべて言った。
「すまなかった。あの子を生け贄にするつもりはない!!私はお前達とあの子の心を試したのだ。この儀式は生け贄の儀式ではない。あの子に力を授けるためだったのだ。さあ、目覚めよ!新しき幻獣神よ!!」
  幻獣神がそう言って念じるとネフティは目を覚まして立ち上がり、幻獣神に駈け寄った。
「幻獣神様、どうして?!私の生き肝を食べればあなたは生きられるとおっしゃったではありませんか?!そうすればあなたはリディアにとって大きな力になると・・。」
  ネフティは寿命のつきかけた幻獣神の身を心底から案じていた。幻獣神は心優しい少女を強く抱きしめた。
「我が子を犠牲にしてまで生き延びようとする父親はおるまい!!」
「!!あなたはネフティの・・?!」
「嬢ちゃんはあんたの子なのか?!」
  幻獣神は静かに座って昔の話をはじめた。
                     ☆
  幻獣神はちょうど15年前、遊牧民族の娘ネフェルタリと恋に落ちた。そして2人は種族を超えた恋を実らせ、ネフティが生まれた。しかし人の血を引くネフティは、他の竜から下等な者とみなされて母と共に地上に追放された。
  しかしネフティの苦難はそこで終わらなかった。母と共に遊牧民族たちの中に身を寄せていたが、竜の血を引く混血児として迫害を受けていた。おまけに彼女はただの半竜ではなくとてつもない潜在能力を秘めていた。ネフェルタリは周りの人間から自分の娘を殺すようにせまられたが、彼女は我が子を殺すことなどできず、ネフェルタリとともに仲間の元を離れてさ迷い歩いた。そしてネフェルタリは極度の疲労と空腹から命を落としたが、ネフティは善良なカイポの老夫婦、イサクとリベカに拾われ育てられたのだった。
  幻獣神はただ一人愛した女性とその娘のことを忘れることはできなかった。彼が美しい青年の姿をしているのは、いつか2人が自分をたずねてやってくる時を思ってのことだった。
  愛する2人と離れたのは15年前であった。それは何十万年もの年月を生きてきた幻獣神にとってほんの一瞬のことだった。しかしその短い間に、ネフェルタリは死に、赤子だったネフティは美しい少女に成長していた。そしてちょうど同じ時期に、竜の中には邪悪な意思を持つ者も現れていた。弟は次期幻獣神として強い力を誇っていたが、自分の力に驕り、やがて邪悪な心を持つようになった。彼は幻獣神と袂を分かち、一族の者や部下を従えて邪悪な人間に力を貸すこととなった。
                     ☆
  幻獣神は愛しい娘の顔をじっと見ていた。
「よく似ている。お前は母親似のようだな。」
  ネフティは泣いていた。やっと父親に会えたというのに、その父親はもうわずかな命しか残されていないのだ。幻獣神は娘の頬を伝う涙を手でぬぐった。
「泣くではない!私はもう充分生きた。最期にお前に幻獣神の力を引き継ぐことができてこんなうれしいことはない!!」
「私は幻獣神になどなりたくありません!!それよりももっとあなたに生きていて欲しい!!やっとお父様に会えたというのに!!」
  幻獣神は困った表情を浮かべてリディアのほうを見た。
「リディアよ。強く清らかな心を持つ娘よ。」
「幻獣神様・・。」
  リディアは幻獣神がひどく哀しい目をしていることに気付き、その目に吸い込まれるように見入ってしまった。幻獣神は静かに話した。
「この子は人間を母親に持ち、人間としての感情が強かった。そしてそのために竜の一族から追放されてしまった。けれど私はこの子こそ幻獣神としてふさわしいと思っている。なぜだかわかるか?」
  リディアはすぐには答えられなかった。感情の強い人間が神となれば、過ちを犯しかねないとも思う。しかしリディアは感情を持たない者がどうやって相手の気持ちを知るのか疑問に思っていた。それにネフティならば立派な幻獣神となれるような気がした。
「彼女が人間としても神としても一番大切なもの、愛を知っているからですか?」
  リディアはしばらくたってからこう答えた。それを聞き、幻獣神は満足そうな笑みを浮かべた。
「さすが、我ら父娘が選んだ召喚士。その通りだ。」
  幻獣神はリディアと愛する娘を見比べながら話を続けた。
「私の弟は純血の竜としてそして次期幻獣神の候補として優れた能力を持っていた。しかし奴はそれに増長し、弱きものを慈しみ、他者を思いやるという最も大切な心を忘れてしまい闇に落ちてしまった。そしてその時私は悟ったのだ。血筋や立場など、その愛という心の前ではチリに等しいことに・・。神に必要なのは、強い力だけではない。光も闇も分け隔てなく、善なる者をたたえ、悪しき者をも憐れむ、強い愛を持つ心なのだ。」
  幻獣神はここまで語ると、少し無理をしすぎているのか、ふらっと倒れかけた。ネフティとリディアは彼を横から支えた。幻獣神は最後の力を振りしぼって語った。
「ネフティ、いやこれからは幻獣神の名としてバハムートと呼ぼう。お前は人としての感情が強かった。そのためにお前は竜の一族から追放されてしまった。けれどお前の人としての心が真に仕えるべき主リディアを選んだのだ。リディアよ、礼を言おう。そなたの強さと愛がこの子を救い、そして私の心をも救ったのだ。」
                     ☆
  いつの間に現れたのか、幻獣神の頭上には赤々と燃える火の鳥がいた。その鳥は前にギルバートや、セシルの前に現れたことがあった。幻獣神はその火の鳥に呼びかけた。
「さあ、大いなる生命の幻獣フェニックスよ。私もすぐに逝こう。」
  フェニックスはうなずき、幻獣神をどんどん引き寄せていく
「逝かないで、お父様!」
  ネフティが父のそばに行こうとすると、幻獣神はネフティに対して厳しい声で叱った。
「来るでない!!お前にはまだやるべきことがあろう!」
「で、でも・・。」
  幻獣神は、今度は限りなく優しい笑顔をネフティに向けた。
「人も獣も草も木も、肉体が滅んだらその魂は1つとなってまた新しい生命を生み出すのだ。それは幻獣である竜とて同じなのだ。哀しむことはない。私の肉体はなくなっても、魂は愛するネフェルタリと共にフェニックスの中で生き続けるのだ。お前は信頼する仲間と共に、私に代わって幻獣神バハムートとしての役割を果たすのだ。」
  幻獣神の身体がどんどん透明になっていく。
「さあ、私は逝かねばならぬ。リディア、それからセシルと言ったな。わが娘のこと頼んだぞ。必ずや悪しき力に打ち勝つのだ。」
  幻獣神は最後の言葉を言い残すと、フェニックスの中に消えていった。ネフティとリディアは泣きながらも彼の意思をしっかりと胸に焼き付けていた。
                     ☆
  幻獣神は死んだわけではない。肉体は滅んでも、生命の幻獣フェニックスとなってその魂は生き続けるのだ。そしてその意志と力は今、ネフティに継承されていた。
「この力は確かに幻獣神の力!!なんて強い力!!」
「でも、いいのかよ?嬢ちゃんはもう人間に戻れないのだろう?」
  エッジは彼女が新しい幻獣神となったことを少し寂しく思った。リディアも本当にこれで良かったとはっきり言い切れない。何よりもネフティを我が子のように愛していたあの夫婦のことが頭に浮かぶ。
「カイポのイサクさん達は、今もあなたのことをずっと待っているのに!!」
「俺がいない間君が力を貸してくれたこと、セシル達から聞いた。争いの嫌いな君にこれ以上戦って欲しくはない!!」
  カインは心優しいネフティが敵を倒す召喚獣になることに賛成できなかった。
「亡くなられたあなたのお父さんには、悪いけれど、あなたが望まないのなら幻獣神にならなくてもいいのよ。あなたは今までと同じようにネフティのままで・・。」
  ローザは幻獣神には悪いと思う。けれどもネフティ自身の意思のほうをより尊重したいと思うのだ。
「君はもう充分僕達に力を貸してくれたよ。ここからは君の自由だよ!!」
  セシルは幻獣神の力を目の当たりにし、確かに味方につければ心強いとは思う。しかしそのために彼女が自分の人生を棒にふるような選択をさせたくはなかった。
  幻獣神の意志と力を受け継いだ少女は皆の意見を聞き、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「私はあの2人が好き、あなた達のことも、あの青い星のことも!!私はこの戦いに勝って愛するあの星に戻りたいの。でもそのためには私自身も戦わなくちゃいけないと思う。父のようにはなれないけれど、幻獣神バハムートとして私は精一杯自分の役割を果たしたい!!」
  幻獣神バハムートとなった小柄な少女は、いつもより大きくそして輝くばかりに美しく見えた。リディアはこれがあの繊細な半竜の少女かと彼女の成長振りに驚きを隠せなかった。
「ネフティ・・。」
  リディアが彼女に声をかけると、彼女は首を振って答えた。
「リディア、あなたが私の力を必要とする時は『バハムート』の名を呼んで!!私はいつでもあなたの元にかけつけるから!!」
「約束よ、バハムート」
  2人は抱擁をかわし、共に戦うことを約束した。
「でもこれだけは忘れないで!!姿や立場が違っても、あなたは私の大切な友達だからね!!」
  愛する星の平和を取り戻すことができれば、彼女は幻獣神(バハムート)から少女(ネフティ)に戻ることもできよう。
  リディアは早くその日が来るためにも、絶対にこの戦いには負けられないと思うのだった。

第34話 「月の地下渓谷」
第32話 「和解」に戻ります
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